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「気になった事って言うか…ここのオーナー、私を雇って本当に良かったってよく言ってる。」
「…人気者だから?」
首を傾げた私に苦笑い。
「そんなの前の店での事だから。
私がここに勤めたって大して売り上げは変わらないと思う。」
「そっか…」
考え込んだ私にまた柔らかい笑顔を向ける彩希さん。
「それにしてもオバサンのメイド姿、すごい個性的だね。似合う、似合わないとかの話じゃない気がする。」
途端にふはっと口元を腕で隠してソウタが笑いだした。
…悪かったね、ソウタと違って似合わなくて。
これでもオーソドックスな着方をしているつもりだけど。
急に機嫌が直って笑っているソウタを睨みつけたら、ソウタはまだ握ったままだった私の手首をぎゅっと握り直し、一度口の両端をクッとあげて見せた。
「…なぁ、彩希。お前、俺との約束本当にちゃんと守ってる?
『クサはやらない』の他に『変な事に首突っ込むな』『何かあったら俺にすぐ連絡しろ』って言ったろ。」
「何それ。疑ってんの?」
彩希さんが眉間に皺を寄せて少しムキになる。
…やっぱり何か隠してるな、これ。
「ある人物がさ、お前にストーカーされてるってうちの探偵事務所に相談して来た」
「ストーカーって…ソウタ、それ信じたの?!」
「信じる、信じないの問題じゃ無いんだわ、こう言う仕事は。依頼を受けた以上そいつの意向に沿って動くのが基本だから。」
「それで何?私に『ストーカーはやめろ』って説教しに来たんだ。女装までしてご苦労様です。」
「違っ…!」
私が横から口を出そうとしたら、ソウタがまたテーブルの下で手首をギュッと握り直す。
「そいつさ、俺の名前知ってた。でも顔は知らなかったみたいなんだよ。」
ソウタの言葉に、彩希さんは目を見開いて明らかに顔が強ばった。
「…お前、俺に何隠してんの?」
「そ、それは…」
口ごもる顔が青ざめてく。
「お前さ、今、何かヤバい事に巻き込まれてんじゃないの?しかも自分が知らないうちに。
んで、その巻き込まれたヤバい事のコマの一人がうちに来た依頼人。
本当のターゲットは…彩希、お前かもしくは、俺?」
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