10.メイドカフェ潜入

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「…今は、そんな事言ってる場合じゃないだろ。考えればわかるでしょ?彩希なら。」 「嫌!いくら危険があったって、私は絶対にここを離れない…離れちゃいけないの!」 「彩希!!」 ソウタの怒鳴り声が咄嗟に立ち上がった為に転がった椅子の音に重なった。 彩希さんを少し乱暴に引き寄せると抱きしめるソウタ。 「…頼むよ。ちゃんと俺が守るから。誰にもお前を責めさせないからさ。だから、俺と来い。」 その胸元から嗚咽が聞こえて来て、彩希さんの華奢な肩が揺れた。 初めて聞いたソウタの怒鳴り声。 彩希さんを想う気持ちが大きいんだって実感して少し胸が苦しくなった。 それは多分…少しだけ数年前の自分に彩希さんを重ねたから。 一人で背負わなければと思う孤独さ。 それは、本当に重たくて辛いから。 事情はわからないけど、この強く儚い『高田彩希』と言う人物を『孤独』にしてはいけない 何としても、『高田彩希』を守らなければ。 『守りたい』と強く想っているソウタの為にも。 「…オバサン、ごめんね。ソウタの胸を借りちゃって。」 が暫く泣いた後ソウタから離れると苦笑い。 「いや、だからさ、違うんだって、そこは。」 私もそんなに苦笑いを返す。 「…ソウタ、オバサンになら少し話してもいい?」 私を嬉しそうに微笑んで見た彩希さんに、ソウタの表情も少し柔らかくなった気がした。 「…ご自由に。タバコ吸って来るわ、俺。」 隣の控え室へと去って行くソウタを見送ってから、彩希さんが私に向き直った。 「オバサン、聞きたいよね、私が何でアキバに留まってたいのか。」 「え…と」 聞きたいけど…大丈夫なのかな、話しても。 返答に困った私に笑う彩希さん。 「オバサン、探偵なんだからさ、もっと表情に出ないようにしないと。ソウタに教わらなかった?」 …ソウタは出さな過ぎだよ。 少し憮然とした私を面白そうに見て瞳を揺らす彩希さん。 「まあ、そんな所に惹かれたのかな?」 「え?」 「ううん?こっちの話。で、聞きたいでしょ?」 「聞いても、いいの?」 柔らかい微笑みを悲しそうに浮かべると目を少し伏せた。
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