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『好きだから殺す』
寂しげにそう言ったミヤビが目の前に浮かんで、思わずギュッとスカートを握りしめた。
「彩希さん?あなたね、いくら何でもしゃべり過ぎだわ」
いつの間にか戻って来てたソウタが苦笑いで私の横に座る。
「ま、気持ちはよーくわかるけどね。この人、何か不思議な雰囲気持ってるからさ。
ミヅキちゃん、悪いんだけど本人が話すまでは追求しないでやって?」
それには頷いたけど。
どうしても、あのお日様の様な屈託ない笑顔が頭から離れなくなった。
「とにかくカケルに連絡とって、今日中にアキがここを辞められるように手配してもらうから。二人は仕事あがったら、事務所に向かって?」
「ソウタはどうするの?」
「どうやら俺は行かなきゃいけない所があるみたいだからね。」
「ソ、ソウタ!」
彩希さんが慌てて立ち上がった。
…“行かなきゃいけない所”は、『コノヨノオワリ』を一手に牛耳ってさばいていた、ソウタの元潜入先、だよね。
「大丈夫、一人で行ったりなんてバカな事はしないよ。俺が勝手に行ったら確実に怒る奴らがいるからね」
「それでも…」
「昔と違って組織の力は段違いに弱いみたいだからさ、あそこも。
とにかく、何で今更ネズミをあぶり出そうなんて考え出したかって確かめないと。俺が動けば、何かわかりそうだし。」
確かに一度幹部を無くして力を失ったのかもしれないけれど…。
『草を加工、製造してた人物と発見した人物が出て来てない』
もし…そのどちらかが、今回の一連の出来事の糸を引いてたとしたら?
何となく胸騒ぎがして、ドクンと少し心音が嫌な音を立てた。
「ソウタ…気をつけてね」
「うん、大丈夫でしょ。ミヅキちゃんも彩希をよろしくね。」
沢山の『気になること』が私を少し混乱させていたけれど無理矢理に頭の隅に追いやった。
今はとにかく彩希さんを守る事に集中しよう。
「彩希さんの事は任せて。」
私の言葉に口角をキュッと上げて微笑みながら眼光を鋭く輝かせるソウタ。
「頼もしいじゃん」
「なんせ言い出しっぺですから。彩希さんは絶対に事務所に連れてく。」
そう言ったら口元を隠してふはっと笑ってから私の頭をポンポンて撫でた。
「…頼りにしてる。」
その言葉がやけに心に響いて私も思わず微笑んだ。
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