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「猫ってさ。結構頑固な動物なんだよね。自分の意志で抱かれようと思わないとなかなか捕まらないんだ。」
猫と心を通わせてるミヤビさんが眩しくて、自分が余計ドロドロの汚いものに思えた。
私は…”アシナガオジサン”に自分の意志で抱かれているんだろうか。
ふと黒猫と目線が交わった。その瞳はどこか懐かしい感じがして、不思議な感覚に陥る。
猫をゲージに入れたミヤビさんに「帰るよ」と言われてハッと我に返った。
いけない、今は仕事に集中しないと。
慌ててミヤビさんを追いかけて敷地を出て行くと入り口でバッタリ女の人に遭遇した。
「あら、クロちゃん連れて行ってくれるの?ここのご夫婦、いなくなっちゃったじゃない?だから、エサをあげに来てたんだけど。」
60代位で明るくて話しやすそうな人。
「クロちゃんよかったわね。」とゲージを覗き込んでいる。
「なつっこい猫ですよね、すぐに捕まりましたよ」
ミヤビさんが笑いながらおばちゃんに話しかけると、驚いた表情で顔をあげた。
「そうなの?もうエサをあげて3ヶ月位だけど、未だに触れなかったのよね…。すごいわね、あなた。」
「クロちゃんは面食いなのね」とまたゲージを覗き込む。
うん、やっぱりミヤビさんが凄いんだ。
「あの…ここのご夫婦がいなくなったのも3ヶ月位前なんですか?」
「そうねえ…いなくなったのはもう少し前じゃないかしら。こちらにみえてすぐに挨拶をしたけど、その後来てみたらクロちゃんはいるのにご夫婦の姿が見えなくて。それで、心配でエサをいつもあげに来ていたの。」
おばちゃんの話になにかが引っかかる。
何だろう…。
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