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◇
ミヤビさんと事務所を目指して戻った正午を少し過ぎた商店街は初めて足を踏み入れた時よりだいぶ人がごった返して賑わっている。その雑踏を通り過ぎ、古びたビルの階段を上る。
「ただいまー。」
明るい声で片手を上げながら入って行くミヤビさんに続いた。
一番奥の机でコーヒーを飲んでいたカケルさんが立ち上がる。
「ご苦労様。どうだった?」
「もちろん、捕まえてきましたよ。」
ミヤビさんが自信満々にゲージを一番手前の私の席に置くと、中の黒猫は声に驚いたのかまた少しそわそわと動いた。
「ごめんね、大丈夫だよ、みんな優しいから。」
ミヤビさんが黒猫に話しかけると、その動きは止まる。
「相変わらず、動物と繋がってんな」
コーヒーをすすりながら感心しているカイトをクスリと笑ったソウタさんが「お疲れさま」と私にコーヒーを入れてくれた。
「驚いたでしょ。この人、ほんとミラクルな人だからさ。」
驚いた…と言うよりは、ミヤビさんが凄い人なんだと言うのを目の当たりにしたと言う感じかもしれない。…私への応対も含めて。
「ミヤビ、本当にこの猫で間違いないの?首輪してないけど。」
ゲージを覗きながらカケルさんが聞くと、ミヤビさんが頷きながらコーヒーを飲み始めた。
「ほぼね。」
「根拠は?」
「カケル、写真貸して。」
受け取った写真をゲージの横に置くミヤビさんの顔は、相変わらず優しけれど、少しだけその眼差しに鋭さが増す。
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