1.幼なじみの申し出

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◇ 砂浜を少し上がった所にある芝生にヨガマットを敷いてその上に胡座をかいた。胸の前で合掌して目を閉じる。 ザザザァ… ザザザァ… 波音が耳に届いて瞬時に潮風の心地良さに身体が覆われた。  湘南だ何だともてはやされるこの一体。昼間は確かに騒がしい事も多いが、早朝は波に誘われて来た地元のサーファーと犬を散歩する人が行き交っていて意外と活気があるけど静かだ。皆、この心地の良い潮風に誘われて来て、それぞれの時間を楽しむから。 胸の前で合掌した手を空に向って突き上げた。 …なんて言うポーズだったかな? 少し、集中していた心が乱れたら目の前に出来た陰 「ミヅキ、また来てたのかよ」 …それはこっちのセリフだよ、また来たな。 心地良い空間に堂々と割って入って来る男なんて一人しかいない。 小学校からの幼馴染、カイト。 程よく付いた筋肉と、程良い長身。彫りの深い整った顔がウェットスーツをさらっと着こなす。 サーフィンで濡れた髪をかきあげたら、少し茶髪がかった髪の毛から滴りおちた雫が朝日に照らされキラキラと光った。 「お前、朝からガン飛ばすなよ。ケンカ売ってんの?」 目の前に座ると手を伸ばして、真顔でジッと見ていた私のショートボブの髪を指でとかし始めた。 「相変わらず色気ねぇな…寝癖、つきまくってんぞ。」 「…潮で髪の毛ベトベトになるんですけど。」 憎まれ口を叩く私にニヤリと笑って「あっ?どの口が言ってんだよ。」と私の頬を一度つねると立ち上がる。 「お前、今日何か用事ある?」 「とりあえず昼間は無い」 「昼間は、ね。」と笑い、サーフボードを持ちあげるカイト 「まあとにかく、朝飯ん時、顔かせよ。」と去っていった。 …カイトの「顔、かせ」は、昔からよからぬ事だと相場が決まっているんだよね。 溜め息まじりに丸めたヨガマットを脇に抱えて歩き出したら、波の音と鳶の甲高い鳴き声が海から聞こえて来た。
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