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◇
結局、自由奔放なカイトの申し出を断りきれずに朝食の後、再びカイトと落ち合った。
昔からそう。なんだかんだ、カイトには丸め込まれる。
まあ、きっとキッパリ断りを入れられないのは、根底でカイトのやる事に私自身が興味を示してるって事なんだと思うから。
海岸沿いからひとつ入った道は大通りからひとつ入っただけで田舎の雰囲気を醸し出す。遠く聞こえる波の音と鳶の甲高い独特な鳴き声が程よくマッチしていて、清々しい空気に感じた。
「んで?決別できそうなの?『教授』と。」
「急になによ。私に別れるとか決める権利無いし。」
カイトが「チッ」と小さく舌打ちし、足元の小さな石を軽く蹴飛ばす。
「そう簡単な話じゃないから。探偵が儲かればすぐでしょ?」
「確かに、すぐだな。」
カラ笑いを二人揃ってしながら小さな踏み切りを渡ると見えて来た小さな商店街。
ざわざわと人の声が聞こえて一気に活気のある雰囲気へと変わった。
魚屋があるせいか、魚の臭いが辺りを漂っている。
「この匂い、刺身食べたくなるよね。」
めいっぱい深呼吸をした私の隣でカイトが立ち止まった。
目の前には、古ぼけた二階建てのビル。お世辞にもキレイとは言えないけどこれでもかと言う位のレトロさに胸が少し高鳴った。
「なあ…」
カイトが眩しそうにビルを見上げて呟く。
「もし二年前さ、俺が借金肩代わりしてたらどうなったかな。」
背中では威勢のいい魚屋のおっちゃんの声。
「そりゃあ…カイトが“アシナガオジサン”であたしの事毎日抱いてたんじゃない?」
「それ、いいな」
冷ややかに笑った私にカイトも悲しく笑う。
お互いわかってる。そんな非現実的なもしも話、笑うしかないって。
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