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「楽にしてて」  見下ろしてにっこりと微笑みかけられる。  尚人は緊張のあまり、金縛りにあったように身動きがとれなくなった。  なんで、なんで、こんなことをする?   彼の考えていることが全く分からない。こんなの、恋人同士ですることだと思っていた。  ドライヤーをあてながら、髪の毛を撫でる淳の手つきが優しい。  その手も温風も心地いいけれど、心臓が激しく暴れて、気分はむしろ居心地が悪いくらいだった。  何が楽しいのか、淳は機嫌がよさそうに口角を上げている。  彼の笑い方は、甘ったるくて目の毒だ。  見つめあっている気まずさに視線を外すと、淳の髪がまだ乾いていないことに気がついた。  ――俺のことばかり気にかけて、自分のことは後回し。
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