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冷房の効いた新幹線を降りると、蝉の鳴き声が耳に飛び込んでくる。それとともに、むわりと蒸し暑い空気が体にまとわりついた。
田舎の駅には降りる人もそう多くはない。ホームには数組の姿しかなかった。
帰省であろう子連れの家族のわきを通り、佐藤尚人は階段を降りて改札へと向かう。
実家の隣町に新幹線が通るようになりしばらくが経つが、駅の周りは相変わらず栄えてはいない。新しく立派な駅舎だけが、田園風景になじまず浮いていた。
「あ、おじいちゃん、おばあちゃん!」
改札が見えたとたん、はしゃいだ子どもが尚人を追い抜いていく。その向こうには、嬉しそうに手を振る年配の夫婦の姿があった。
「あ、圭介、切符!」
ひとりで駆け出した子どもをその両親が追いかける。瞬く間に、離れて住む家族の喜びの再会シーンが眼前に広がる。
そんな光景を微笑ましく思いながらも、老夫婦のそばに見知った顔を認め、尚人の足取りは重くなった。
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