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冷気の満ちていた車から降りると、夏を惜しんだ太陽の乾いた熱にちりちりと当てられる。
白の車体の向こう側で、運転席から降りるなり、妹尾さんは「あちい」とぼやいた。
暦の上では秋でも、まだまだ暑い日和の九月の休日。
妹尾さんと一緒にやって来たのは、こじんまりとした産科医院。
前に一度、思いがけず訪れたことのある場所。
車にロックをかける妹尾さんに続きながら、斜め後ろからその姿を盗み見る。
暦に合わせた秋らしい紺の七分ジャケットに、ラフなTシャツ。
普段のスーツ姿とはかけ離れたカジュアルな足元から繕われるオシャレさに、目は奪われっぱなしだ。
見れば見るほど心は膨らみ、はちきれそうな想いが動悸を誘う。
密かに視姦する私に気づかない妹尾さんとともに、狭い駐車場を横切り、“時間外入口”と書かれた扉をくぐった。
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