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朝目覚めたベッドに、温もりの残骸はない。
名残を落とす前に、社長は愛する妻を迎えに帰っていった。
妻の恋人の元へ。
『いいよ、ゆっくりおやすみ』
社長は微睡みなど少しも引かずに、ホテルの部屋を出る。
散々その甘い声で翻弄され尽くした私の耳に、優しい台詞を吹き込んで。
自宅のベッドとは違う肌触りの中で、ひとりで朝を迎えるのは毎回のことだ。
部屋に運ばれるモーニングが一人分なのも、いつものこと。
昨夜は、……凄かった……
スクランブルエッグをフォークで掬いながら、シャワーでは流しきれなかった社長の熱に身震いする。
久しぶりだったし……
溜まってた、のかな……
なんて下品な表現。
あの爽やかな社長には似合わない。
どちらかというと、私の方が抱かれたがっていたような気がする。
女だって、シたいときくらいある。
……だって、2ヶ月も空いたし。
男性のそれの捌け口である自覚はある。
でも、あの人の抱き方はそれをうやむやにしてくる。
激しいくせに、優しくするんだもんな……
指先の一本一本が、私を慈しむ。
身体中を這う口唇は、私の隅々に愛を囁いている気がしてしまう。
いっそ、もっと明々に性だけをぶつけてくれればいいのに。
まったくもって……狡い人なのだ。
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