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「食事のあと、ご自宅の方まで回っていただくよう車の方には伝えてあります」 「うん、ありがとう。  もしかしたら検診に時間取られるかもしれないから、妻のこと送り届ける前に、社で俺のこと降ろしてもらえるようにも言っててくれる?」 「かしこまりました」 淡いライトブルーの廊下に、私達二人の足音は響かない。 半歩前に、背筋の伸びたダークグレーのスーツ。 彼の後ろはいつだって、爽やかな香りが流れてくる。 「あ、それから」 金文字で最上階を指す数字の書かれたエレベータの前に立ち止まると、誰もいないフロアで振り返る社長が私の耳に顔を寄せてきた。 「今日の夜、大丈夫?」 どき、と心臓が跳ねるのは、いつもは穏やかなトーンの声が、色香をまとって低く囁いてきたから。 それだけ言ってあっさり距離を取られると、小さく淋しさが過る。 誰もが見惚れるイケメンフェイスが、視界に戻ってくるなり、こくりと頷いた。 上目遣いになるのは、この人の長身の所為、だ。 ほんの一瞬だけ、珍しくふたりの間にプライベートな空気が作られる。 私の返事を受ける彼の瞳は、それが心からのものではないとわかっていながら、本当に愛おしそうな表情で微笑んだように見えた。 .
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