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* 「有坂君も一緒にと思ってたんだがね」 エレベーターが1階に到着したところで、操作パネルの前に立つ私の背中に、宮下専務の残念そうな声が掛けられた。 「申し訳ございません、宮下専務。  これは日々私の片腕として多忙を極めております故、またの機会ということでご勘弁を」 これから宮下専務との会食の席に、私も同行しないかとのお誘いがあった。 自動で開いた扉を押さえる私に代わり、先導する社長がエレベータを降りる。 恰幅のいい専務を誘導しながら、社長は丁重にお断りをしてくれた。 専務に付く秘書の男性が、二人のあとに続く。 前にも一度名刺交換をしたことがある。 名前はたしか……樋口(ヒグチ)、さん。 ほんの一瞬だけど、ふたりで取り残された箱の中。 濃紺スーツの切れ長の横目の視線が、私の横顔を舐めるように見ていた。 あまりいい印象を持たない彼の視線には気づかないふりをして、最後にエレベーターを出た。
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