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「青臭い若造との懇親で申し訳ないのですが」 「そんなことはないのだけれど、……まあ、親睦はまた別の機会でも設けることにしよう」 断りの返事にも気を悪くした様子のない朗らかな声が、吹き抜けたガラス張りの明るい玄関ロビーに響く。 受付嬢が起立をして頭を下げるカウンターを横切り、専務の前に足を伸ばす。 正面玄関の自動ドアの前に先導し、ガラスの扉を開いた。 きらりと目を突いたのは、正面玄関前に横付けされた黒塗りの車からの反射。 開かれたドアに、太陽光が存在感を当てつける。 朝は冷めていた外の空気も、春を追い越す陽射しにずいぶんと和められていた。 2台縦列に停められた車のそれぞれに、お付きの運転手が待ち構えている。 前方の車の脇に居る黒スーツは、宮下専務の運転手だ。 「それでは、またのちほど」 社長の一歩後ろに立ち、車に乗り込む宮下専務を見届ける。 間もなく発車する車に、社長とともに頭を下げた。 対して、その後ろに付いていた社長の社用車。 後部座席のドアを開けて立つ真新しい顔に、振り返る。 社長より先に歩み寄ると、軽い会釈から戻る顔が、私を見た。
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