12/18
前へ
/476ページ
次へ
「お疲れさまでございます」 履歴書の写真と同様、きちんと整えられた黒髪。 黒のスーツに白い手袋の様相の彼は、いわゆる執事のようにかしこまる。 「妹尾さん、ですね。お疲れさまでございます。  秘書課室長の有坂です。今日からよろしくお願いいたします」 社交の笑みで真面目そうに笑む彼に、挨拶を交えて自己紹介した。 「妹尾さん、今日からよろしくお願いします」 女子社員の心を鷲掴む微笑みを貯え運転手に頭を下げる社長。 他の上層幹部達は、運転手ごときに頭を下げるなんてことは、絶対しないだろう。 深々と頭を下げる妹尾さんが直ったあと、彼に開けられた後部座席に乗り込む社長は、やはり「ありがとう」と言葉をかける。 白手袋がドアを閉めると、こちらへ振り向く妹尾さんは、私に会釈をした。 「お気をつけていってらっしゃいませ」 頭を下げ返し、運転席側に回る背中を見送る。 出発する車に45度のお辞儀をして、エンジン音が消え去るまで、その場を動かないのが、私の仕事である。 .
/476ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7989人が本棚に入れています
本棚に追加