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思わず浮かれそうになる足取りをなんとか落ち着けながら、部屋の中央に並ぶ料理達を避ける。 部屋の入り口に着き、かた、と施錠を解くと、ゆっくり扉が押し開かれた。 私の逸る気持ちとは真逆のゆったりとした動作でそこから現れる長身。 「お疲れさまです」 「うん、お待たせ」 あの社長室の凛とした雰囲気とは違い、途端に溢れる……甘い空気。 一歩中に足を踏み入れた彼は、扉が閉まるより先に、 私を抱き締めた。 「ご飯、食べた?」 耳に直接振動を伝えながら響く声に混じり、すぐそこで扉がかちゃりと閉まった。 「いえ、今ルームサービス来たところで」 「そか、腹へったね」 「一緒に、食べましょう」 「うん」 心なしかいつもの声より元気がないのは、毎回のこと。 空腹の所為なんかではないことくらい、承知だ。 そして、ご飯を食べようと言うわりに、私を離そうとしないこの腕が、ほんの少しだけ、私に慰めを乞うていることも。
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