17/18
前へ
/476ページ
次へ
* 「検診、どうでした?」 「うん、順調。  ツワリもだいぶ治まってきたし、もうそろそろ安定期ってとこだって」 「そうですか」 後ろから私を抱きしめる腕に、指を這わせると、ちゃぷ、と乳白色のお湯がいびつな波紋を広げる。 まとめた髪から落ちるひと束だけを揺蕩わせる湯船に、ふたりとも一度同時に昇りつめた身体をゆったりと休ませていた。 社長は、妻帯者。 こんな関係を、世の中は“不倫”と位置付ける。 けれど、不道徳な関係を何年間も続ける私達の間に、 ……“愛”は存在しない。 私達の関係の始まりは、学生時代にさかのぼる。 同じ大学の同じ学部。 受ける講義が同じで、顔を合わせるうちに自然と話すようになった。 彼に、婚約者がいると聞いたのは、在学中のこと。 決められた将来についての話をしてくれた流れで、本人の口から語られた。 そして、その婚約者には、当時から相思相愛の恋人がいるということも――……。 「今日は、ゆっくりですね」 「ん。久しぶりだから、迎えは遅めに行くって言ってある」 「大丈夫、ですか?」 さっきと同じ質問に、私を抱きしめる腕が強くなった。 「すげー切ない。胸痛い」 「本当は会わせたくないんだって、ちゃんと伝えればいいじゃないですか」 「……うん……でも、約束、だしね」
/476ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7989人が本棚に入れています
本棚に追加