3/39
前へ
/476ページ
次へ
そして、そんな優しい社長に甘やかされて、甘えている私も……狡いと思う。 チェックアウトまでゆっくりと過ごすのが、ここに来たときのお決まり。 この後は、このホテルのサロンで、年齢に抗えなくなってきた身体の潤いを少しでも長く保つために、文字通り爪の先まで磨いてもらう予定だ。 自分のために、悠々自適におひとり様の休日を謳歌する。 土曜の今日、仕事は休み。 それも毎回のこと。 社長の奥様は、金曜の夜にしか外出しないらしいから。 必然的に、私もそのスケジューリングに合わせざるをえない。 それに関して、社長の奥様をどうこう思うことはないんだけど、その日を迎える社長の気持ちを考えると……ほとんど会うことがない彼女に対して、目を細めてしまう。 もちろん、負の感情で。 喉の奥が切なく締め付けられるのを誤魔化して、カップに残ったコーヒーを飲み干して立ち上がる。 舌を転がりゆく苦味は、勘違いな幸せに浸る心にまで、沁みるように喉を滑り落ちた。 .
/476ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7989人が本棚に入れています
本棚に追加