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小さな四角い写真に収まっていた人とは、違う雰囲気。 軽いトーンのスプリングコートを着こなした長身。 昨日の執事のようには堅くないシャツに、足元のデニムとブーツがラフさを織り交ぜる。 崩された黒髪は、ロビーに射すうららかな週末の陽に照り、 ラウンジから席を立ってきたらしい妹尾さんが、ふいに上げる視線で私を捉えた。 せっかくのプライベートの時間。 仕事を思わせる人と会うと、身に染みついた会社のあの規律正しい空気が過る。 満足していた自負心が萎え、全く違う緊張感が背筋を伸ばさせた。 目が合ったのだから、声を掛けるべきだとは思ったけれど、プライベートはお互い様。 大声を出さなければ届かない距離に居る彼には、軽い会釈くらいが適度なマナーだろう。 返ってくる会釈を受け、気持ちを休日の憩いに向けて足を進める。 出口に着くまでに、手首の細い時計に目を落とした。 ランチにはまだ早い。 最近新作を出したブランドショップを頭に浮かべ、これからの自適な予定を立てる私の前に、す、と影が入ってきた。
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