7990人が本棚に入れています
本棚に追加
鼻腔を掠める、かすかな煙の臭い。
近くに立った気配に、顔を上げた。
「こんにちは、有坂さん」
なぜか、やたら親し気な笑みで、妹尾さんがそこに居た。
まさかの接近に、見上げた目をぱちぱち瞬く。
交わした会釈で、挨拶は終わったものだと思っていた。
わざわざ声を掛けてきたのは、一応私が社員配置図的に、妹尾さんより上部に記されているからだろうか。
「こんにちは、妹尾さん。奇遇ですね、お泊りでした?」
面と向かわれたのだから、多少の社交は必要だろう。
ここに居るのなら、このホテルを利用したことはわかってはいるけれど、
昨日初めて言葉を交わした人に、それ以外にはお天気の話題くらいしか振ることがない。
そういえば、連れは居ないのだろうか。
私が言うのもなんだけど、ひとりで泊まりに来るには、少々気後れしそうな場所だ。
ラウンジに残し、上司に当たる私に挨拶に来てくれたのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!