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鼻腔を掠める、かすかな煙の臭い。 近くに立った気配に、顔を上げた。 「こんにちは、有坂さん」 なぜか、やたら親し気な笑みで、妹尾さんがそこに居た。 まさかの接近に、見上げた目をぱちぱち瞬く。 交わした会釈で、挨拶は終わったものだと思っていた。 わざわざ声を掛けてきたのは、一応私が社員配置図的に、妹尾さんより上部に記されているからだろうか。 「こんにちは、妹尾さん。奇遇ですね、お泊りでした?」 面と向かわれたのだから、多少の社交は必要だろう。 ここに居るのなら、このホテルを利用したことはわかってはいるけれど、 昨日初めて言葉を交わした人に、それ以外にはお天気の話題くらいしか振ることがない。 そういえば、連れは居ないのだろうか。 私が言うのもなんだけど、ひとりで泊まりに来るには、少々気後れしそうな場所だ。 ラウンジに残し、上司に当たる私に挨拶に来てくれたのかもしれない。
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