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「有坂さんも?」 「ええ、今日はサロンでリフレッシュを」 にこにこと交わし合う笑み。 どこかで豪快に笑う男性の声が、広いロビーに佇む私たちの頭上を飛んでいく。 続きそうにない会話を埋める沈黙に、不自然さは否めない。 それはそうだ。 顔と名前を覚えたのはつい昨日のこと。 そんな人と、話題にするほどの私的な情報など皆無なんだから。 それでは、これで……良い休日を。 無難な別れの常套句を口にしようとすると、 「有坂さん、これからのご予定は?」 まだ会話を続けるらしい妹尾さんに、おいとまするタイミングを払われてしまった。 「今日は久しぶりにショッピングでも楽しもうかと思ってます」 「そうなんですね」 営業用とでも言っていい笑顔を張り付けたままの私。 それ以上会話の花を開くことは難しいと、二の語を次がない空気を、……妹尾さんは読まなかった。 「あ、そうだ。  もしよかったら、これからご一緒してもいいですか?」
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