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「……は……」 空気を読まない、どころではなかった。 言いそうになって開いたまあるい口を、慌ててつぐんだ。 いち秘書たるもの、丁寧な言葉遣いは公私の隔てなく心がけるのが、私の持論。 普段の言葉遣いがつい出てしまうなんて、上司はもちろん、お客様に対しても御法度だ。 気心知れた友人や家族ならまだしも、よく知りもしない同僚にだって同じこと。 だけど今、心の中では、全力で言わせてもらおう。 ……はぁ!? 「足くらいの役には立てると思いますよ。  ここで会ったのも何かの縁ですし、このあと親睦会兼ねてのお食事でもいかがでしょう」 「えっ、あ、あの、妹尾さん……お連れの方は?」 「いや、俺も一人なんですよ。  これからどうしようかと思っていたところに、あなたをお見かけして。  思わず声を掛けてしまいました」 首をかしげて、へへ、とでも零しそうな憎めない笑みが、私の返答を待ち構える。
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