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前髪に影を作られた眉をしんなりと下げられると、変に邪険な扱いができなくなる。 もちろん邪険にする理由はどこにもないのだけれど。 「話くらい、……業務に差し支えないときなら、いつでもいいのに」 一日中忙しなくしている秘書の私達にも、昼休みくらいはある。 ランチに出たり、社食で昼食を採ることだってある。 昼休みでなくとも、業務が終わってからでも、声を掛けようと思えば出来る。 他の部の社員とだって、顔を合わせる機会なら、いくらでもあるのだ。 さらに言えば、1階にある運転手室と15階の秘書室とでは、距離こそ離れているものの、業務上の関わりは他のどの部署よりも、近いところにあるのに。 「秘書課ってやっぱり、高嶺の花じゃないですか」 妹尾さんが言うには、そういうことらしい。 「仕事上の関わり以外で、こんな形でもないと、きっと近づくこともできなかったから」
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