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どうして、心がほっと息を吐いたのだろう。 ……だなんて、白々しい。 本当は、わかっている。 答えを出すために、もう何も考えなくていいからだ。 私は南ちゃんのような、器用な甘え方ができない。 今までに、そんなスキルを身につけてこなかったし、……その必要もなかった。 あの人と出逢ったときから、私は自分が甘えるよりも先に、大いに甘やかされてきたのだ。 合コンとか男の人とご飯に行くだとか、縁がなかったわけではい。 だけど、私はそういった類の“出逢い”を、敬遠し続けてきた。 現に、今だってそう。 南ちゃんならきっと、二つ返事でOKを出すに違いない場面。 妹尾さんが、わりと顔のいい部類に入る方なのだから、なおさら。 イエスと答えるだけで、きっと私の世界は少しずつ変化を始めるんだろうと思う。 それなのに、……私は難しく考えなきゃいけないフリをした。 わざと返事を濁した。 変えたくないんだ。 愛されていると感じられる現状を。 肌に馴染んだ、私を安堵で包む温もりを。 たとえそれが、錯覚なんだとしても。
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