秘書室長さんの口説きかた

１

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「本日は、午前10時30分より、丸善商事の宮下専務との会合です。

　10分前には、お迎えに出ます。

　そのあとの昼食は、いつもの割烹一心を予約しておりますので」

片手に抱えるタブレットには、ずらりと整列する時刻達。

ひしめき合うように文字が敷き詰められた画面は、スケジュール管理帳。

黒のピンヒールパンプスのかかとをきちんと揃えて、目線を上げると、PCディスプレイの向こうに見えるのは、軽いくせっ毛のアッシュブラウン。

重厚感を体現する黒塗りのデスクに鎮座する人。

背に抱える巨大なガラス窓は、広大な青の空を映し、この人の背負う世界のすべてのようだ。

うん、と返ってくる穏やかな返事。

右手に隠すように持たれた角印が、まもなく傍らの朱肉に押し付けられた。

手元の書類とPC画面を見比べながら判を押し、私が読み上げるスケジュールもこちらを見上げることなく、その全てを把握するのだ。