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「本日はありがとうございました」
太陽が随分と自己主張を強めた午前の終わり。
社のエントランスで、黒塗りの車が夏を思わせるほどの陽射しに照る。
社長の一歩後ろに立ち、車へ乗り込む宮下専務に頭を下げる。
専務のあとに続き「失礼いたします」と挨拶をする秘書の男性は、今日初めて見る新しい顔だった。
助手席側に立っていたその人は、私達より一回りは上の年齢のようだ。
風格に年輪を刻んでいる秘書の方を乗せるなり、発車する車に丁寧にお辞儀をして見送った。
夏の気配を纏った風が、一筋だけ社長と私の横を通り過ぎる。
「……彼、あれから撤回はしなかったそうだよ、辞表」
「そうだったんですね……」
専務の車が見えなくなるまでを見つめながら、社長と言葉を交わす。
名前を出されなくても、誰のことを話しているのかはわかった。
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