最終章

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「有坂」 「はい」 身を翻し、社屋に戻る社長に続く。 玄関ロビーのガラス張りを潜りながら、端正な顔が爽やかな香りを流して振り向いてきた。 「秘書室に戻る前に、一度社長室まで来てくれる?」 「はい」 「ちょっと話があるんだ」 「かしこまりました」 悪いね、と眉尻を下げ、社長は申し訳なさげに肩をすくめる。 15階に到着すると、社長を先に通して、役員用のエレベーターから降りる。 ライトブルーのカーペットに二人分の足音を鳴らしながら、廊下の最奥にある社長室に向かっていると、背後の方でもう一台のエレベーターが到着する音が聴こえた。 気になり振り返ったのは、社長と同時。 社員用の扉から現れたのは、今日もきちんと仕立てられた濃グレーのスーツを美麗に着こなす妹尾さんだった。
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