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軽く腕を組み、社長は静かに言う。
「『ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』」
「……樋口さん、ですか」
差出人はわからないはずなのに、妹尾さんは社長のトーンに合わせて彼の名前を口にした。
「うん、宮下専務から言付かった。
それから、これ……見ての通り、妹尾さん宛てにだそうだよ」
私達から落とされた視線の先。
茶色の封筒が、無言でこちらを向いていた。
「中は……」
「オレも宮下専務も見てない」
社長からの目配せで、ようやくそれを手に取る妹尾さんに、ペーパーナイフが差し出された。
「失礼いたします」とシルバーの柄を持ち、すっと封筒が開封された。
中から取り出されたのは一枚の紙。
「これ……」
思わず口にして、目を見開く。
極薄い緑色の紙の中央には、“¥1,000,000※”とタイプされた数字。
誰が見てもわかる、……小切手だ。
「慰謝料のつもりなのかな」
「そう、かもしれませんね」
樋口さんらしいと言えばそうなのだろうけれど、社長も妹尾さんもすっきりとした表情はしなかった。
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