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軽く息を吐いてから、妹尾さんは小切手を封筒に戻した。
「修理代、結構かかったって言ってなかったっけ」
懐に仕舞うのをためらった様子の妹尾さんに、社長は言った。
「タイヤの交換はしましたけれど、金額的にここまでは……」
「これが彼なりのけじめのつけ方なんだろうね。
素直にいただいていても、バチは当たらないと思うけど」
ぎし、と音を鳴らし、社長は渋々納得するように革張りの椅子に深く腰掛ける。
「それはそうですが……。
……ひとまず、検討します」
妹尾さんは封筒を見つめたまま、思案しているようだ。
うつむく妹尾さんが何を考えているのか、知りたくて不安になる。
私の視線に気づく瞳は、横目に私を捉えてから顔を上げた。
固かった目元がふっと表情を崩すと、あっさりと不安は遠のき、ただただ胸はときめきに跳ねる。
「俺は、あなたの気持ちの方が心配です」
「え……っ」
思考を読んだかのような妹尾さんに、鼓動の音量が増した。
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