最終章

8/29
7954人が本棚に入れています
本棚に追加
/476ページ
軽く息を吐いてから、妹尾さんは小切手を封筒に戻した。 「修理代、結構かかったって言ってなかったっけ」 懐に仕舞うのをためらった様子の妹尾さんに、社長は言った。 「タイヤの交換はしましたけれど、金額的にここまでは……」 「これが彼なりのけじめのつけ方なんだろうね。  素直にいただいていても、バチは当たらないと思うけど」 ぎし、と音を鳴らし、社長は渋々納得するように革張りの椅子に深く腰掛ける。 「それはそうですが……。  ……ひとまず、検討します」 妹尾さんは封筒を見つめたまま、思案しているようだ。 うつむく妹尾さんが何を考えているのか、知りたくて不安になる。 私の視線に気づく瞳は、横目に私を捉えてから顔を上げた。 固かった目元がふっと表情を崩すと、あっさりと不安は遠のき、ただただ胸はときめきに跳ねる。 「俺は、あなたの気持ちの方が心配です」 「え……っ」 思考を読んだかのような妹尾さんに、鼓動の音量が増した。
/476ページ

最初のコメントを投稿しよう!