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「これが罪滅ぼしのつもりだったとして、それであなたの心が落ち着くかといったら……そうではないのではないかと」
「……」
たしかに、違うものとは言えど、封筒に書かれた文字にわずかに怯えたのは確かだ。
だけど……
「私は……妹尾さんがいてくれれば、不安はないです」
素直に今の気持ちを告げると、私をまっすぐに見ていた瞳は束の間の静止のあと、ふわりと微笑んだ。
大きく鳴る胸の音が、自分の気持ちをまた自覚させる。
私には、本当に妹尾さんが必要なんだ……
「さすがに、目の前でのろけられると、オレも形無しだな」
はは、と軽やかに笑う社長の声で、一瞬の間、妹尾さんと二人だけの空間を作ってしまったことに気がついた。
はたと瞬き、羞恥に頬を火照らせて、妹尾さんと顔を背け合う。
「あー、そうだな。
樋口さん、もうじき結婚するそうだから、ご祝儀として何かお渡しするっていう手もあるね」
専務の元を去った彼が、結局は家の都合に抗えなかったんだと思うと、少しだけ可哀想に思ってしまう。
「そうですか……
それならそういった形ででも、お返しするように考えさせていただきます」
「うん、任せるよ」
私と同じことを思ったのかどうかはわからないけれど、目線を落とす妹尾さんは、スーツのジャケットの内側に封筒を仕舞った。
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