最終章

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なんとなくすっきりとした気分なのは、妹尾さんも私とおんなじような気がする。 交わす笑顔は、いつにも増して穏やかだ。 社長に心酔していると言われたことを、手放してようやく実感した。 妹尾さんの言うとおり、私は盲目だったのだ。 それが本物の幸せだと錯覚し、誰にも掴まることなんてせず、自分の心を犠牲にしてひとりで立っていた。 今、妹尾さんが隣にいてくれて、私が幸せというものをいかに履き違えていたかを自覚させられる。 こんなに心穏やかで、誰の目も怯えることなくそばにいられる。 胸の内を探ることなくお互いを信頼しているから、場所を選べば触れ合うことは簡単だ。 ……妹尾さんはちょっと気にしないところがあるけれど。 そっと小指同士が触れると、また当然に鼓動がぱちんと弾け、ほんのちょっとしかない距離でも詰めたくなる。 だけど、社長室と同フロアにある秘書室の前まで来ると、昂まる気持ちを消化できないまま一歩妹尾さんから離れた。 「バッグ、取ってきます」 「うん」 ほんの束の間離れることすら惜しみながら、秘書室に立ち寄った。
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