7990人が本棚に入れています
本棚に追加
なんとなくすっきりとした気分なのは、妹尾さんも私とおんなじような気がする。
交わす笑顔は、いつにも増して穏やかだ。
社長に心酔していると言われたことを、手放してようやく実感した。
妹尾さんの言うとおり、私は盲目だったのだ。
それが本物の幸せだと錯覚し、誰にも掴まることなんてせず、自分の心を犠牲にしてひとりで立っていた。
今、妹尾さんが隣にいてくれて、私が幸せというものをいかに履き違えていたかを自覚させられる。
こんなに心穏やかで、誰の目も怯えることなくそばにいられる。
胸の内を探ることなくお互いを信頼しているから、場所を選べば触れ合うことは簡単だ。
……妹尾さんはちょっと気にしないところがあるけれど。
そっと小指同士が触れると、また当然に鼓動がぱちんと弾け、ほんのちょっとしかない距離でも詰めたくなる。
だけど、社長室と同フロアにある秘書室の前まで来ると、昂まる気持ちを消化できないまま一歩妹尾さんから離れた。
「バッグ、取ってきます」
「うん」
ほんの束の間離れることすら惜しみながら、秘書室に立ち寄った。
最初のコメントを投稿しよう!