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ランチに出ることを課の子に伝え、バッグを手に妹尾さんの待つ廊下に戻ると、秘書室の留守番のために先に休憩を取っていた南ちゃんが、妹尾さんに挨拶をしているところだった。
「あ、室長、戻りました。これから出られるんですか?」
「ええ、あとよろしくね」
「はーい」と間延びした返事をする南ちゃんは、目を細めてにやりと口端を上げた。
「聞きましたよ、ふたりで社長室だなんて。
……結婚の報告でもされてたんですかぁ?」
「えっ!? ち、違うわよ、そんなんじゃ……っ」
“結婚”の二文字に過剰反応する私は、両手と頭をぶんぶんと振り回すように否定する。
「そんな全力で否定することないじゃないですか。あながちそういう話ではなかったとは言い切れませんから」
「えっ!?」
きらりと効果音を鳴らしそうな笑みを携え、妹尾さんは飄々と宣った。
「ほらぁ、やっぱりそうなんじゃないですかぁ。
良かったですね室長、おめでとうございますー」
「ち、違……!」
「あたしも室長に続きますから」
ぴ、と敬礼をした南ちゃんは、噂の彼の疑惑が晴れ、あとは幸せな未来をただ真っ直ぐに見ていけるようになったと聞かされたのはつい先日のこと。
「それじゃあ藤井さん、僕達出てくるんで」
「了解ですー。ごゆっくり~」
わし、と私の手を掴み、妹尾さんは意気揚々と歩き出す。
妙な誤解を置き去りにしたまま、振り向き見た南ちゃんのニヤけ顔は、ひらひらと掌を舞わせていた。
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