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課の子らに早合点の話を広められる前に、あとでメッセージを送ろうと考えていると、ほどなくして到着したエレベーターに乗り込むなり、“閉”のボタンを押さえながら、妹尾さんは操作パネルの隅に私を追い詰めた。
急に縮まった距離に、胸はときめき驚く。
「せの……」
口にしようとした名前は、妹尾さんの口の中へ溶けるように吸い込まれた。
動く様子のない密室は、瞬く間に熱量を上げる。
抵抗できず、……しようとせずに、口唇は息苦しく食むられる。
自ら妹尾さんの中へ入り込んだところで、エレベーターは指示なくふわりと下降を始めた。
「……あ……」
名残惜しく離れいく口唇を目で追うと、熱を持った真っ直ぐな瞳が、ゆっくりと瞬き淋しげに揺れた。
「あんなに思いっきり否定するなんて、……傷ついた」
「えっ、な、なんの……」
ぎゅっと肩を抱き寄せた妹尾さんは、わざわざ私越しにパネルのボタンを押す。
爽やかな香りの中にかすかな煙の匂いを見つける。
安堵に包まれるそこに堕ちそうになると、意識を取り戻させたのは、ぽーんという軽い音。
エレベーターは停止し、密室が解かれる前に、妹尾さんは何食わぬ顔で私を手放した。
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