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明らかに妹尾さんに対して気があるとわかる声が、……なんだか、面白くない。
しかもそれにちゃんと応える妹尾さんも、妹尾さんだ……
……なんて、無粋に無視されても、それはそれで人格を疑うけれど。
自分でも恥ずかしくなるほどのみっともない嫉妬に、突き出そうになった口唇を引っ込めて背筋を伸ばした。
「すみません、先約があるので」
「そうなんですかぁ、ざんねーん。じゃあまた今度誘わせてくださぁい」
「すみません、それは……できかねますので」
「……バカッ、何言ってんのよッ……」
「えー?」
こそこそと猫撫で声を諌めた言葉に、ざわついていた庫内が一瞬で静まり返る。
背中に視線を感じると、張り詰めたような空気が、ぽーんという軽い音に砕けた。
目的地に到着したエレベーターがお勤めを全うするように、淡々と扉を開く。
「お、お先でーす……」
口々に、お疲れ様です、と言いながらいそいそと眩しいロビーに出て行く女の子達。
最後に出ていく綺麗な巻き髪の女の子は、ショートーヘアーの子に肘で小突かれていた。
黙って“閉”のボタンを押すと、すぐ後ろに迫った気配に、ぎゅっと身を固める。
「ごめん……はぐれた」
わざと耳元で囁かれる声に、ふるりと身体を震わせた。
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