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「ご飯、どこに行きますか?」
先にエレベーターを降りながら、努めて明るく声を出す。
背後に革靴の足音を聴くと、距離を取ったはずの妹尾さんは私の手を自然にさらい、一歩先に足を踏み出した。
ここでも妹尾さんは、私の胸中を察してくれる。
「誤魔化すことなんかない。……俺だっていっぱいヤキモチ焼いてるんだし」
こっそりふてていた私は、固くしていた笑みを崩す。
単純に、ヤキモチを焼かれているということが嬉しかった。
「……社長に、ですか?」
「当然」
車へと歩みを進めながら、振り返らない妹尾さんがどんな顔をしているのかわからない。
たちまち火照りなおす頬に、ゆるりと口元が緩んだ。
「妹尾さん、いつも社長にあんな言い方してるんですか?」
「あんな言い方?」
「……あんまり快く思っていないのが滲んでるというか」
「思ってること、顔に出る性格だからね」
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