最終章

20/29
前へ
/476ページ
次へ
「ご飯、どこに行きますか?」 先にエレベーターを降りながら、努めて明るく声を出す。 背後に革靴の足音を聴くと、距離を取ったはずの妹尾さんは私の手を自然にさらい、一歩先に足を踏み出した。 ここでも妹尾さんは、私の胸中を察してくれる。 「誤魔化すことなんかない。……俺だっていっぱいヤキモチ焼いてるんだし」 こっそりふてていた私は、固くしていた笑みを崩す。 単純に、ヤキモチを焼かれているということが嬉しかった。 「……社長に、ですか?」 「当然」 車へと歩みを進めながら、振り返らない妹尾さんがどんな顔をしているのかわからない。 たちまち火照りなおす頬に、ゆるりと口元が緩んだ。 「妹尾さん、いつも社長にあんな言い方してるんですか?」 「あんな言い方?」 「……あんまり快く思っていないのが滲んでるというか」 「思ってること、顔に出る性格だからね」
/476ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8002人が本棚に入れています
本棚に追加