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「あ。先月言ってたやつ。
夕方の会議の前に、少し時間取れるようになってる?」
「一応、予定は空けておりますけれど、……あとは宮下専務次第かと思います」
「だよなー。あの人、悪い人ではないんだけど、話長くて」
よし、とぐっと判を押しながら、苦笑いを浮かべる端麗な顔。
今は整髪料が乗り軽く整えられているけれど、ナチュラルな時のあのくせっ毛は、触るとふわりと柔らかい。
「もう一か月ですね」
「うん、あっという間にやってくるね、定期検診。なるべく一緒に行ってあげたいんだけどな」
「そうですね……昼食後直接ご自宅までお迎えにあがれば、大丈夫かと」
「それあれだよな、職権乱用? いや、コンプライアンス違反? 社の車、私用に使ってさ」
「距離分のガソリン代は、お給料から天引きさせますので」
「それでまかり通るなら、よろしく」
公私の区別をきっちりつけているのは、社長も、私も同じだ。
たとえそれが、この社長室でふたりきりであっても、
空気が甘くなることは、……まず、ない。
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