3/18
7957人が本棚に入れています
本棚に追加
/476ページ
「あ。先月言ってたやつ。  夕方の会議の前に、少し時間取れるようになってる?」 「一応、予定は空けておりますけれど、……あとは宮下専務次第かと思います」 「だよなー。あの人、悪い人ではないんだけど、話長くて」 よし、とぐっと判を押しながら、苦笑いを浮かべる端麗な顔。 今は整髪料が乗り軽く整えられているけれど、ナチュラルな時のあのくせっ毛は、触るとふわりと柔らかい。 「もう一か月ですね」 「うん、あっという間にやってくるね、定期検診。なるべく一緒に行ってあげたいんだけどな」 「そうですね……昼食後直接ご自宅までお迎えにあがれば、大丈夫かと」 「それあれだよな、職権乱用? いや、コンプライアンス違反? 社の車、私用に使ってさ」 「距離分のガソリン代は、お給料から天引きさせますので」 「それでまかり通るなら、よろしく」 公私の区別をきっちりつけているのは、社長も、私も同じだ。 たとえそれが、この社長室でふたりきりであっても、 空気が甘くなることは、……まず、ない。 .
/476ページ

最初のコメントを投稿しよう!