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『はい、運転手室です』
とても丁寧で、穏やかな口調。
だけど、随分と若い男性の声。
秘書室へ戻り、自席の電話からかけた内線の向こう。
少しだけしわがれて哀愁を含んだような初老の男性の声を受け入れる体勢だった耳が、わずかに驚いた。
ああ、そういえば。
先日、運転手の村岡さんが定年退職したことを思い出した。
「秘書室です。お疲れ様でございます。
本日の社長のスケジュールのことでお話したいのですが。……妹尾(セノオ)さんは、ご在席でしょうか」
『はい、わたくしが妹尾でございます。
本日付で、社長専属として配属されました。
後ほど改めて、ご挨拶に参ります』
「そうでしたか。
秘書室室長、有坂(アリサカ)です。よろしくお願いいたします。
早速ですが、本日のスケジュールは端末で出ている通りですけれど、昼食後、一度社長のご自宅までお願いいたします。
時間的には、先方次第になりますけれど、社長の休憩時間をそちらに当てますので」
『了解いたしました』
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