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社長も覚えはないって言ってたっけ。 長年社長に就いていた村岡さんは、隠居生活も楽しみたいのだと、引き留める社長に丁寧に断りを入れ、60歳を迎えた誕生日の日に円満退職した。 私達秘書が知り得ない内密な話も、決して外部に漏らすことのない完璧な法令遵守。 社長からも、絶大なる信頼を得る人だった。 そんなベテランの後任に、若人が務まるかしら…… 村岡さんが後任に勧めてくれた人材なんだから、危惧することもないんだろうけれど。 妹尾という名前を顔写真とともに業務的に頭に教え込む。 ファイルを元の場所に戻しながら、机上の電波時計の時刻を確認した。 「南ちゃん」 視線をやることなく、秘書室中央に並ぶ机4台の一角に声をかける。 「はいっ」とアイドル声優ばりのハイトーンボイスが返事をした。
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