【第1章】色をなくした世界

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ドールの操る傀儡に目を診察されながら、私は淡々と答える。この傀儡はドールの【神気(しんき)】を流し込まれており、その能力により患者の身体の中を直接触診することができる。 「ああ。ここ数十年“色”は見えていない。モノクロの世界で何の不自由もしてはいないが、ドールの鮮やかな傀儡…人形達が見れないのは寂しい気がしている」 するとドールは私の目を診ていた人形を引き上げると、 「私の人形は色彩豊かだからね♪とは言っても、君の容貌の方がさらに鮮やかな色彩を放っているぞ。で…本題だが…やはり、特に外傷は見られないようだ。リヒトの色覚異常は原因不明であるが、数十年診てきた結果、ひとつの結論に達した。色が見えないのは、心の問題から来ているのではないだろうか」 と真顔で言い放つ。 ドールは気高く勉強熱心で、彼に治せない怪我や病気は存在しない。その場では治せないことはあっても、再診したときにはすべて完治させていた。これは不屈の精神が彼の中に宿っているからだ。 彼は我々ヘンカーの障害をすべて取り除いてくれていたが、唯一私の色覚異常だけは“今の自分では治せない、だがいつか治してみせる”と言い続けていた。(嗅覚は“あえて治さないで”くれ、と頼んでいた) その負けず嫌いとも言える彼が、匙(さじ)を投げたかのごとく心の問題と言うとは…
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