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シヴィルがあいつと呼ぶのは、この世界で知らない者はいない、稀代の殺人鬼…“血の伯爵夫人”と呼ばれる女だ。
「喜びはしないが、これで人々もようやく心の安寧を得ることができるだろう。では、さっそくだが参ろうか」
私は制服でもある黒いフード付きのマントをおもむろに羽織ると、シヴィルの肩に手を置く。そのまま標的の住まうハンガリーの城へと空間移動をする。
城に到着してすぐに、言い様のない寒気と、人々の叫びを感じる。
「うっへえ…想像以上の臭いだぜ。血とか尿とか…そんなもんじゃないぜこりゃ。ほら、リヒト。マスクやるから、しとけ!」
私の嗅覚が失われていることを知らないシヴィルが、黒いマスクを手渡してくれる。何事もなかったように受け取ると、目以外はすべて塞ぐようにマスクを装着する。
「マスクとは、便利なものだな」
ぼそっと呟くと、最上階の1室からけたたましい叫びともとれないような咆哮が聞こえる。
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