【第1章】色をなくした世界

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「やっこさん、窓が1つしかない塔に幽閉されてるらしいな。闇との契約もとうに切れてるってのに。人間界の法で裁けないから、こうやって俺等に泣きついてくるなんざ、人間ってやつは身勝手なもんだ」 「シヴィル…それはたぶん、人間達は恐れているんだろう。血の伯爵夫人は彼女自身が怪物に成り果てている。闇との契約以前より人間離れしていたが、契約後は異形(いぎょう)の者へと成り下ってしまった。今はたとえ力はなくなっていても、並の人間では影響を受けかねない。彼女の存在自体が呪(しゅ)のようなものだな」 「へえ…リヒトは物知りだな。さすが、次期隊長!」 「私はまだまだだ。とは言え、知識は力だよ。シヴィルも今以上に強くなりたければ、賢人達に教えを乞うなり、本を読み漁るなりするといい」 「ふっふっふ。だったら俺は恵まれてるな。リヒトとドールっていう2大賢人が身近にいる♪ってことで師匠、よろしくな!」 「まったく…お前ってやつは」 「こんな俺が好きだろ?」 シヴィルの言う通り、底抜けに明るいこの男の性格が、私は好きだ。シヴィルは裏表がまるでないので、一緒にいて疲れない。 心顕なんて能力を持つと、まともな人間関係なんて築きようがない。(我々ヘンカーは人間ではないが) 家族だとか、恋人だとか…そんなものは、遥か昔に諦めてしまった。
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