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「リヒトの仕事ぶりを見るのは初だな。これだけの悪人でなければ、ヘンカーが2人以上で対処するなんてないからな。お手並み拝見させてもらいますよ、師匠♪」
「あ、ああ。では、最上階に向かおうか」
《私は何を考えているんだ。恋人だとか、家族だとか…ばかばかしい》
犬並に鼻の利くシヴィルの案内で、最上階へと向かう。
階段を1段1段登るごとに、筆舌に尽くしがたい不快感が増していく。冷や汗が全身から流れ出し、頭に心臓があるかのようにどくんどくんと動悸を感じる。
そして、未曾有(みぞう)の映像が頭の中に流れてくる…
櫛…髪…血…少女の涙…肉…風呂桶…女の笑い声…火かき棒…焼ごて…拷問器具…少女の叫び…捨てられた遺体…散乱する棺…滴る血、血、血…………
凄惨な映像は止まらない。階段を登る足を止めることもできない。
数々の悪人を心顕してきて、無数の残虐な行為を目の当たりにしてきたが、これは私の知る悪という概念を真っ向から覆すほどのものであった。
憎悪、憤怒、哀傷、悪心(おしん)、すべての負の感情が渦巻いていた。
やっとの思いで階段を登りきり、壁を通り抜けた瞬間、私の意識は途絶えた。
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