【序章】光という名の男

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逃げていた男が建物の陰に隠れて、2人の追跡者を撒こうと息を殺している。だが、そんな小手先の潜伏では、2人の目を欺くことは不可能である。 赤い瞳の男がもう1人のフードの男に目で合図をすると、反対側の道から周り込み、追われている男は2人に挟まれる。男は逃げ道をなくし、その場にへたり込んでしまった。 「逃げても無駄です。いい加減、観念なさい」 新しく完成したばかりの教会(ミュンヘンフラウエン聖母教会)の脇の路地裏で、壁を背にし石畳に腰を抜かしている男を見下ろしたまま、赤い瞳の男は表情ひとつ変えず語り掛ける。 「お、お前は何者だ!?お…俺がお前らに何したって言うんだ?た、頼む。見逃してくれ!」 男は半狂乱になりながら、赤い瞳の男に命乞いをする。足元にしがみつき、醜いまでに髪を振り乱している。男の足元には、みるみるうちに水溜りが広がっていく。 最期の瞬間、人が示す態度は大体同じだ。自分の犯してきた罪に目を向けることもせず、己の保身にしか関心がなくなる。この男も、同じだ。 「そなたは、自分の罪に気づいていないのか?そんなはずはあるまい。申し開きがあるなら、最後に聞いてやろう」
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