【第1章】色をなくした世界

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「ない。私には標的の名前を聞いた瞬間、その者の“罪が見える”し、対峙すればその者の“心が見える”。罪を浄化するには、命を以って償わせるしかない」 と私は考えるまでもなく断言する。 私は今まで一度として標的を取り逃がしたことはない。1488年に独り立ちをしてから、何千人もの罪人を断罪してきて、“申し開き”をする者は少なからずいた。だが、その罪を認識し、【浄化】まで求める者は1人としていなかった。そこまで考えが及ぶ者はいないからだ。 「リヒトの罪が見える【罪顕(ざいけん)】と心が見える【心顕(しんけん)】は恵まれてる才能でもあり、呪いでもあるな。この力を持ちながらも、お前がどうやって正気でいられるのかが不思議だよ」 正気………か。 この126年の間、人知れず無くしてきたものがある。 “色”と“匂い”だ。 最初に失ったのは嗅覚であった。血の匂い、罪人の匂い、争い、憎悪、欺瞞、人の発する悪臭…私は人一倍それらの匂いを敏感に察知してしまっていた。それらの匂いを遮断するのは、正気を保つために必然だったとも言える。 次に景色から少しずつ“色”が消えていった。赤から順に消えていき、青、黄色と続いて、今ではすべての景色がモノクロに見える。
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