【第1章】色をなくした世界

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《それを正気を失ったと、人は言うのかもしれないな》 私は“笑う”感情すら忘れていたことには、自分では気づいていなかった。表面上の笑顔は作れるが、心から笑うことが昔から苦手であったからだ。完全に笑うことができなくなっていることに、気づけるはずもない。 「正気云々はともかく、私たちは与えられた“宿命”をこなすだけだ。罪人を人々に代わり裁くことが、私たちのさだめ」 シヴィルに言うように、自分自身を納得させるように私は言う。 「あー、リヒト!シヴィル!お久しぶり♪お話中のところ悪いんだが、少しの時間リヒトを借りていっていいかな?」 後ろから声を掛けてきたのは、傀儡医師(くぐついし)の【Doll(ドール)】。彼も数少ない私の親友の1人である。シヴィルと違い、同志というよりは、良き理解者…という方が適切であろう。なにしろー 「“目”の方はどうだ?相変わらず、“色”は認識できないのか?」 私の色覚異常と嗅覚がないのを知っている唯一の友なのだから。
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