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「おまえ……馬鹿じゃねえの? なあ……京一さんよ」
――食物起源神話になぞらえて、死体を埋めて、豊穣祈願かよ。
「そんなんで、私のお兄ちゃん殺してんじゃねえぇぇえよ!」
女は、男の顔に、包丁を突き立てる。
「ほら、言ってみろよ。ブロークンマイヘッドって言ってみろよドカスがアアああアはははははははははははは」
きもちいい……ああ、なんて気持ちいいんだろう……。女は、何度もそう囁く。その真っ二つに割れた頭蓋にすり込むように、そうささいた。
「I hate you……」
最後に、耳元で、甘い声音でそう告げて、
「殺してやるよ」
その耳を削ぎ落とす。次に鼻を削いで、最後に胸に突き立てる。
なんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんども。
「あははああああぁぁぁあああっぁぁああああああああーきもちいいいぃいいいい!」
吹き出す鮮血をその顔の全面に受けながら、女は喘いだ。
高らかに、嬌笑をあげた。
「あは、あはは、は……」
声が、乾く。
そうして女は、肉の破片を、見下ろす。
男のスマートフォンを取り上げ、たたき割る。中から、かつて仕込んだ小型カメラと、盗聴器を、取り出した。
「きもちわるい」
それから真っ赤な花の咲いた肉片に向かって嘔吐する。
「私は……私。私以外は……私じゃない」
そして、冷蔵庫に向かう。
中から、肉を取り出す。
その肉には、ラベルが貼ってある。
『桐生武雄』。
「……おにいちゃん」
囁き、その肉をちぎり、口で頬張り、噛みしめる。
「…………おにいちゃて、おいしくないんだね」
涙が、こぼれた。
そのままコンロに火を付ける。
油をコンロからフライパン、床にかけてまき散らす。
最後にフライパンに兄を載せ、それは次第に焦げだし、燃え上がる。
彼女はゆっくりと部屋を出て行く。
「さようなら……」
最後に振り返る。かつて氷見だった、それに向けて。
「嘘は、言っていないよ」
――『女を監禁すれば、その日、おまえは救われる』
時計の針は、もう間もなく零時を指し示そうとしていた。
「あんたのクソみたいな人生……少しはマシになったでしょ?」
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