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鴉がいる。
異様なサイズの鴉だ。それが今、氷見京一の目の前でとまっていた。
彼はゆっくりとベッドから上体を起こし、ぼんやりとそれを注視する。
「鴉って、こんなにデカかったっけ……?」
呟く。そして次の瞬間、傍らのスマートフォンが、ブルブルと震えた。
メールだ。それが一通、彼の元に届いていた。最近ではSNSの台頭により、すっかり仕事以外では利用することもなくなってきた、そんなメールアプリを立ち上げ、メッセージを確認する。
送信元のアドレスは不明。彼の知らない者からだった。
そして本文。そこには――
『私は、十年後のあなたです。氷見京一。あなたにとある助言をさしあげようと、メールを送ったのです』
そう、書いてある。
「……なんだ、このメール……」
単純に彼は、新手の詐欺か、嫌がらせか、はたまた友人からの悪戯か、そんなところだろうと見当をつけた。
(こんなメールは、シカトしてしまうに限る)
しかし――
『あなたはきっと信じないでしょう。だから、そんなあなたに……、あなたが私であると、私があなたであると、そう信じてもらう為に』
――『あなたしか知らない事実を、私があなたに教えてさしあげます』
そんな、文面で、そのメールは締めくくられていた。
なんだろう、と氷見は頭を傾げる。悪戯にしては、いささか手が込みすぎてるというか……。
――常軌を逸している。
気味が、わるい。
ブブブブブブ。
スマホが、次のメールを受信する。
同じ送り主からだ。
『平成27年11月25日15時28分。おまえはベッドから見えた窓辺の鴉を注視し、そして"鴉ってこんなにデカかったっけ?"と呟いた』
今日は、たしかに平成27年11月25日だ。
(時間は……?)
時計を見る。現在時刻は15時30分。
「…………」
辺りを見回す。しかし、当然のことながらその1Kのアパートの部屋には、彼の他には誰もいない。窓から外を覗いてみても、やはり、誰もいない。
「どういうことだ……?」
こいつは、なぜ、言い当てることが出来たんだ?
ブブブブブ……。
『平成27年11月25日15時30分。おまえは当惑し、"どういうことだ……?"と呟いた』
彼はスマートフォンをベッドに向かって投げつける。
「なんだ……こいつは!」
気味が悪い。
彼は気を落ち着けようと、なにか食べて気を紛らわせようと、考える。
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