わたし以外……わたしじゃないもん!

2/10
前へ
/10ページ
次へ
 鴉がいる。  異様なサイズの鴉だ。それが今、氷見京一の目の前でとまっていた。  彼はゆっくりとベッドから上体を起こし、ぼんやりとそれを注視する。 「鴉って、こんなにデカかったっけ……?」  呟く。そして次の瞬間、傍らのスマートフォンが、ブルブルと震えた。  メールだ。それが一通、彼の元に届いていた。最近ではSNSの台頭により、すっかり仕事以外では利用することもなくなってきた、そんなメールアプリを立ち上げ、メッセージを確認する。  送信元のアドレスは不明。彼の知らない者からだった。  そして本文。そこには―― 『私は、十年後のあなたです。氷見京一。あなたにとある助言をさしあげようと、メールを送ったのです』  そう、書いてある。 「……なんだ、このメール……」  単純に彼は、新手の詐欺か、嫌がらせか、はたまた友人からの悪戯か、そんなところだろうと見当をつけた。 (こんなメールは、シカトしてしまうに限る)  しかし―― 『あなたはきっと信じないでしょう。だから、そんなあなたに……、あなたが私であると、私があなたであると、そう信じてもらう為に』  ――『あなたしか知らない事実を、私があなたに教えてさしあげます』  そんな、文面で、そのメールは締めくくられていた。  なんだろう、と氷見は頭を傾げる。悪戯にしては、いささか手が込みすぎてるというか……。  ――常軌を逸している。  気味が、わるい。  ブブブブブブ。  スマホが、次のメールを受信する。  同じ送り主からだ。 『平成27年11月25日15時28分。おまえはベッドから見えた窓辺の鴉を注視し、そして"鴉ってこんなにデカかったっけ?"と呟いた』  今日は、たしかに平成27年11月25日だ。 (時間は……?)  時計を見る。現在時刻は15時30分。 「…………」  辺りを見回す。しかし、当然のことながらその1Kのアパートの部屋には、彼の他には誰もいない。窓から外を覗いてみても、やはり、誰もいない。 「どういうことだ……?」  こいつは、なぜ、言い当てることが出来たんだ?  ブブブブブ……。 『平成27年11月25日15時30分。おまえは当惑し、"どういうことだ……?"と呟いた』  彼はスマートフォンをベッドに向かって投げつける。 「なんだ……こいつは!」  気味が悪い。  彼は気を落ち着けようと、なにか食べて気を紛らわせようと、考える。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加