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(こんな時は、なにかを腹の中に入れるのが一番だ)
なにか困ったことがあったら、とりあえずなにかを食べる。それは彼の一種の習慣だった。
部屋の片隅にある冷蔵庫の方へ歩いていき、中から肉を取り出し、フライパンで焼き始める。
肉の焦げる香りで、食欲が脳みそを刺激する。なにかのホルモンが分泌されていくのを彼は実感し、そして今日、起きてからまだなにも食べていなかったことを、今更ながらに思い出した。
「……空腹でどうかしちまってたのかもな」
そんな風に呟く。なにかの間違いなのかもしれないと、そう独り納得しようとする。
しかし、
ベッドの上のスマートフォンがブブブブブと震える。
新たなメッセージが到来していた。
しかしそれは読まずに、肉の調理を続ける。どうせ、『肉を焼く。どうかしてると呟く』とか書いてあるに決まっているんだ。
……なんだか、だんだんと、腹が立ってきていた。空腹のせいかもしれない。
「……ちっ。なんなんだよ」
独り舌打ちをする。そして――
ブブブブ――
いい加減、ウンザリだった。
彼はまだ赤みの残るその肉に、適当な味付けを施し、そして皿に移し替えてナイフとフォークをそえる。それからベッドの上に移動し、「ふうー……」とため息をつく。
ブブブ――
受信。
「もう、いいって……」
ブブブ。
また、受信。
どうやらこいつは、自分がなにか口を開くごとにメールを送ることにしているのかもしれない。
というよりも。
「こいつは未来の俺なんだから、どこまで送れば信じるか……わかってやってんだろうな」
つまり、彼が信じてしまいまさえすれば、次の段階にへと切り替わるのだ。
事実、今の発声では、メールは送られてはきていない。なぜならこの瞬間、彼はそのメールを信じることに決めていたからだ。
「ったく……」
彼は肉をあらかた頬張り終えると、そのままスマートフォンを手に取る。そして大方の予想通りであるメール内容を一通り確認し終えてから、
『わかったよ、十年後の俺。で、いったい何のようなんだ?』
と、返信した。
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