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「また同じくニューギニア、マリンド・アニム族の行うマヨとラパと呼ばれる祭礼では、マヨ娘とラパ娘と呼ばれる若い娘が、祭りに参加している大人の男たちによって犯された上で、殺されて食べられています。そしてそのあとで骨を集め、やはり埋めるそうです」
氷見は、背筋が寒くなるのを感じた。
この女は……、なにが、いいたいというのか?
「この儀式はですね、つまり人を、畑に見立てているんですよ。地母神信仰――母なる大地は神であるということです。つまり、大地を耕して作物を育て、それを食べて生きているというのは、彼らにいわせれば、母なる神の身体を切り刻み、そしてその血と肉により生きていることと同義……そういうことなんですよ」
だから。
「彼らは祭りでそれを再現するんです。神に見立てた女を殺し、切り刻み、『いつも通りに』それを食っているんですよ。ふふふ……京一さん。あなたはそれについて……どう思いますか? 私は……そうですね、実に興味深く、感じています。一度やってみたいって……最近、常々想っていたんですよ……ねえ、京一さん」
彼女は、そこまで話し終えると、静かに氷見を見やった。
そして氷見はというと、背中を汗が流れ落ちるのを、感じていた。
(俺は……もしかしてとんでもない人間に、かかわってしまったのではないか……?)
いやな、予感がした。
この女。
「おまえ……あたま、どうかしてんじゃないのか?」
「それを、あなたが言うんですか? 私を訳のわからない理由で、拉致監禁したあなたが……?」
その言葉の迫力で、氷見は一歩後ろにさがる。気圧されていた。その異様な雰囲気に。
そこで、彼はある疑問にぶち当たる。
(どうして未来の俺は……こんな女を、拉致しろって、言ったんだ?)
こんな女には、かかわるべきではない。そう彼の本能が告げていた。
時計を見やる。
時刻は二十三時三十分を回ろうとしていた。今日が終わるまで、残り三十分弱。
あと、少し……。
(つまり、こいつはここで監禁しておかないと、今頃はとんでもないことを俺にしていたはずだって……そういうことなのか?)
彼女は不気味な光をともしながら、依然としてこちらを見つめている。
薄気味悪い笑みを顔に張り付けながら、笑いかけてきている。
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