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額を汗でぬらしながら、もう一度、時計をみる。まだ、先ほどから一分も経っていない。時間が経つのが、遅い。
「あと、もう少し、ですね……」
彼女がそう言う。
「……そう言えば、京一さん。あなたに私を監禁しろと命じた……その人は、それから連絡をよこしてきているんですか?」
彼女が、氷見のスマートフォンを眺めやりながら、そう告げる。
(そう言えば……あれから、音沙汰がない……?)
ブブブブブ……。
震えた。スマートフォンが、メールの受信を報せている。依然として縛られたまま、こちらに微笑みかけてきている女に一瞥してから、
おぼつかない動作で、それを、確認した。
『平成27年11月28日23時00分。おまえは自分が監禁した女に、”愚かなことに”、好意を持ち始める』
『平成27年11月28日23時15分。おまえは女に食物起源の神話について聞かされ、怯え始める』
『平成27年11月28日23時33分。おまえは目の前の女が、”もしかしすると、過去に自分の犯した罪についてなにか知っているんじゃないか”と疑い出す』
『あなたの抱いた、”それ”は、正しい』
『その女は、知っています』
『あなたが食物起源神話を知っていることを承知で、疑われてしまうことを承知で、それをあなたに話したのです』
『なぜなら、もう三十分しかないからですよ、』
「京一さん」
女が、告げる。
立ち上がっていた。
ロープは切られ、その右手には肉切り包丁が、そして左手にはスマートフォンが、握られている。
「おまえ……まさか……十年後の……俺……って……?」
「ふふ……ふふ。あは、あははははははははああああはははあっはははははふあふふあふあああ!」
女は、喘ぐようにして、笑った。
「あー……きもちいい……」
唇をぬらりとなめずる。
「ねえ、京一さん? あなたも、切り刻んであげますよ」
――あなたがやったみたいに。
「桐生……その名前でピンとくれば、許してあげてもよかったのに……」
そこで、女は狂気の面を浮かべる。
「まるで気づきもしやがらねえんだてめえはぁあっ!」
氷見は、動けなかった。
「前に、あんたのやってるって農園……見に行ったんだよ、私」
嗤う。
「そしたら……埋まってたよ……」
――おにいちゃんが。
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