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高校生活の、自分だけのひそかな楽しみ。
憧れ程度の目の保養のつもりだから、仲がいい郁にも真津美にも話したことはない。
それにしても、よくあたしの名前を知っていたな。
あたしは、別におとなしいわけでもないけど、決して目立つ部類には入らない。
どちらかというと、その他大勢に完全に埋もれるタイプだ。
「ちょっとこいよ」
一澤くんは、抑えた声にきつい形相で、顎を肩越しに後ろにしゃくった。
「え? でももうすぐ授業……はい」
本鈴まで一分もないはずだ。でもガラス窓まで割れそうなビリビリした緊迫感に気おされて、あたしは本意とは違う返事をする。
怒気に支配された空気。
先に行ってて、と小声で促すあたしに、一緒にいた郁と真津美も心配そうに肩を縮め、顔を見合わせてからしぶしぶうなずいた。
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